大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)765号・昭29年(ネ)769号 判決

およそある営業を営む商人が同業者である他の商人に対しその営業の部類に属する取引につき仲介あつせんをし取引を成立せしめる場合は、他の商人は自ら取引の相手方を択びもしくは同業者でない者の仲介あつせんにかかる場合にくらべて、もつぱら自己の判断にもとずき事を決するというよりは多くこの者の仲介あつせんに信頼するのが通常であるから、かかる同業者として仲介あつせんに当るにはその取引の相手方の資産信用能力等について相当の認識をもち、取引の結果が円満に履行されるについて支障がないかどうかを検討し、いやしくも自己に信頼した者の期待を裏切ることのないよう愼重に事をすすめるべき注意義務あるものと解するのを相当とし、その仲介あつせんがもつぱら好意に出でその間手数料その他の利益を得る目的がない場合であつても同様であるといわなければならない。しかし他方において、いやしくも商人が自己の営業上の取引をするにあたつては自ら相当程度の注意を尽し、その損害を防止すべき責任あるものであつて、それが他の同業者の仲介あつせんにかかるというだけでもつぱらそれに信頼し、自ら尽すべき注意を尽さずために損害をまねいたとすれば、その責任の一半はその者自らもまた負うべき筋合のものといわなければならない。

かかる見地に立つて本件をみるとき、原審及び当審における被告会社代表者岩上浅十郎尋問の結果によれば、右浅十郎は本件の仲介あつせんをするにあたつては、横田商会水戸出張所なるものがはたして横田商会の正当な出張所であるか、柳庫一の身分資格信用等がどうであるかについては自らなんら調査することなく、右出張所なるものが実は横田商会とはなんら関係のない別個の存在で、文山ら朝鮮人三名が勝手にその名を用いているに過ぎないものであることを知らず、ただ水戸市にある同業者株式会社中島商店の店員星野憲介から同商店も右水戸出張所と取引したことがあるとの事実を聞知したのみでたやすく右水戸出張所を横田商会の正規のそれと誤信し、漫然原告に対し本件仲介あつせんの所為に出たことが明らかであつて、かかる行為はそれ自体前記の注意義務に違反し、過失あるものたるを免れない。本件の代金の回収不能が直接には右柳の転売及び代金持逃げに基因することは前認定のところからおのずから諒し得るが、水戸出張所もしくは柳と横田商会との関係が何であろうとそのことにかかわりなく本件取引が成立したであろうというようなことはこれを認めるべきなんらの証拠はなく、かえつて原告も被告も買主が横田商会であると信じたればこそこの取引をしたものであることは本件口頭弁論の全趣旨から明らかであつて、もし柳を通じて有効に横田商会との売買が成立したならば、柳の所為の如何にかかわらず横田商会自身が責任を負うべきこと当然で、これによつて直ちに代金回収不能を来たすものとはいえないのであるから、右柳の持逃げの事実は被告の過失を解消せしめるものではない。また原審における証人荒川照雄は横田商会の社長から水戸に出張所を設けた旨を聞いたといい、原審証人星野憲介、当審証人熊本範治の各証言によれば他の同業者において横田商会水戸出張所なるものと取引してその代金を横田商会(本店)から取立てた者のあることが認められるが、横田商会水戸出張所が横田商会の出張所ではなく、その名称も許されたものでないことは前記証人合沢健吉の証言により明らかで、水戸出張所の取引代金を横田商会がいかなる理由で支払つたかは明瞭でないばかりでなく、当時被告自身が右横田商会社長の言明や他の取引代金支払の事実について聞知した結果前記のように誤信したというのであればかくべつ、これを認めるべき的確な証拠はなく、前記の事実があるからといつて被告の誤信がもつともであるとすることはできない。

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